酒蔵訪問№01 『義侠』 後編 愛知県津島市 山忠本家酒造

たわらや

2011年03月11日 12:13

(3月9日続)
◆ ワインと日本酒の違いは技
 これまでに経験したことがない品質が劣った山田錦。これでどんな酒ができるのであろうか。酒づくりを前にして、本当に悩んだそうです。
 醸造酒は、素材の持つ品質がそのまま香味に影響してくる酒類です。ワインでいいますと、ブドウの出来栄えがほぼワインの品質となります。ですので、収穫前のブドウの品質を調べることによって、今年の品質が分かるといいますし、何年頃まで熟成させた方が美味しくなるという熟成期間も言えるのです。
 日本酒ももちろん米の品質に左右されることは確かです。が、杜氏や蔵人が手を掛けることで香味を左右してきます。ですので、どんなによい米を使っても、上手に仕込まなければ駄酒またはそれより劣る酒質になります。逆に、上手に仕込めば美酒が生まれます。原料の米の品質を見極め、それに則した手立てを講じて仕込むことが酒づくりに要求されるのです。
 ですので、米の品質が悪い時は、それぞれの酒蔵の製造技術力の競争によって品質に差が生まれやすくなります。杜氏や蔵人泣かせの仕込みの冬を迎えるのです。さて、今年の義侠ではどんな取り組みをしたのでしょう。

◆ 駄米を美酒に

 品質の劣った米いっても全部の粒が悪いわけではありません。粒をなるべく揃えるところから始まります。網目の大きさを替えて篩にかけると目標とする米粒が揃います。米粒が小さいのは未熟な粒ということでこれをできるだけ除く作業をします。
 次は害虫が食べた米には、黒い斑点が米に付着します。そのため色の着いた米粒を弾く選別機を通します。
 そうすることによって、整粒の比率が高くなります。なるべくこのような作業をすることによって、原料米の質を向上させていきます。
 さて、この状態で酒蔵へ持ち込まれます。先ず、米を精米します。高熱による障害は米粒の胴にヒビが入る「胴割れ」が多くなります。胴割れの粒が精米機に入ると、高精米すればするほど、粉々になってしまいます。整粒だけが残る比率が格段に高くなります。米の質の悪い時は、米糠がたくさん出るため、酒蔵にとっては儲けが少ない酒になります。ここを惜しまずにできるかできないで、出来上がる酒の質に影響が出てきます。
 義侠は最低でも60%まで磨き酒を仕込みます。できる手立てを施して酒づくりに挑んだそうです。


義侠の杜氏の杉村洋氏。
平成12年より、南部杜氏の
ベテラン名杜氏とされた佐藤勝郎杜氏に代わり杜氏に就任しました。
佐藤勝郎杜氏の豪快なホームラン性の酒づくりに対して、杉村洋杜氏はクリーンヒットを打つ酒づくりです。非常に綺麗な香味の酒質に磨きがかかってきています。

◆平成22BY「義侠」の酒は…
 午前10時より、今年仕込まれた酒のきき酒が始まりました。



 仕込みが違う酒を、蛇の目模様のあしらってあるきき猪口に移しきき酒をします。



 色を見て、香りを嗅いで、口に含みます。口の中で酒と空気を混ぜ合わせ、口の中で酒の香味を十二分に味わいます。鼻から空気を抜いて、酒を吐き器に吐き、キレの状態を確かめます。全身できき酒をします。

 今年、杉村洋杜氏と社長の御子息である山田昌弘君が取り組んだことは、出来上がった麹米の後の処理をしたことということでした。これまでは、気温30℃以上ある麹室で出来上がった麹米を、外気温の部屋に出していたそうです。厳冬期であれば外気が0℃であり、気温差が約30℃もあり、せっかく調湿した麹米の表面に水分が着くことになっていたということです。
 これを無くすため、出麹後、15~20℃の部屋に一昼夜放置して、外に出し、麹米の湿度を保つ工夫をしたそうです。
 酒母=酛を御子息である山田昌弘君が担当したそうです。

 今年の義侠の酒はどれも洗練され、米の質の悪さを微塵も感じさせない美酒が出来ていました。鑑評会に出品すれば入賞する酒質です。欠点のない酒ばかりです。前杜氏・佐藤勝郎杜氏の造る豪快なホームラン的な酒質とは全く違い、鮮やかなクリーンヒット系の正直な酒質です。杉村洋杜氏と御子息山田昌弘氏の真面目で実直な生き方をそのまま酒質で表現したように思いました。

どれも良かったのですが、
特段よかったお酒をご紹介します。



◆義侠 平成22BY スペックA
60%精白 純米原酒・生酒
色:透明に近い
香:高いといろで香る澄みきったトーンの香。けっして香りは強くはない。
味:新酒にして円熟味がある。こじんまりとまとまった酒質。全体的にきれいで可憐な酒質です。厳冬に咲く「わびすけ」(椿)を彷彿させるそんなイメージの酒です。GOOD。
ランク:特別純米原酒・生酒
原料米:兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:60%
日本酒度:+4.0
酸度:1.5
アルコール度数:16.8%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 3045円(税込)
    0720ml 1523円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。

◆義侠 平成22BY スペックB
50%精白 純米原酒・火入
色:透明に近い
香:全体的にすっきり系。ややカリンを彷彿させる好感の持てる香り。
味:さっぱりした酸味を帯びつつも、こなれた円熟味が広がり、最後はキレがよい。たいへんまとまった美酒です。GOOD。
ランク:純米吟醸原酒・火入
原料米:兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+3.5
酸度:1.5
アルコール度数:16.8%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 3885円(税込)
    0720ml 1943円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。


◆義侠 平成22BY スペックD
特別純米原酒・1500㎏60%・火入
色:透明に近い
香:コハク酸、乳酸の香り。最も義侠らしいカラーの香り。少し開放的ではなく、こもった感じの香り。
味:水分を保った干しブドウを味わった時のように甘味と旨味がいっせいに口いっぱいに広がる。たいへん好感も持てる穏やかな酒質です。
GOOD。
ランク:特別純米 特別栽培米使用 1500㎏×60%精白 火入
原料米:兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:60%
日本酒度:+4.5
酸度:1.7
アルコール度数:17.4%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 3570円(税込)
    0720ml 1785円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。


◆義侠 平成22BY スペックE
純米吟醸・750㎏50%・生酒 ♯15
色:ややコハク色。
香:すっきりして全体的に開いた感じ。洋梨・柿を思わせる水っぽいイメージの香り。
味:全体的に迫力を感じる米の旨味。まとまりある円熟味。酸・旨・渋・苦・甘という五味のバランスに優れ、威風堂々たる酒質。吟醸の王道を歩む横綱酒質。Very GOOD。
ランク:純米吟醸原酒・生酒 750㎏×50%精白 仕込み番号♯15
原料米:兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+4.5
酸度:1.5
アルコール度数:17.4%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 4725円(税込)
    0720ml 2363円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。


◆義侠 平成22BY スペックF
純米大吟醸・750㎏40%・生酒♯16
色:透明
香:9号酵母らしいデリシャスりんごの香をオブラートに包んだように控えめに香る。上品な香りです。
味:素晴らしいバランスの持ち主。
酒質の非の打ちどころのない酒質。鑑評会なら金賞間違いなし。欠点がない分、面白さに欠けるかもしれません。GOOD。
原料米:ランク:純米大吟醸原酒・生酒 750㎏×40%精白 仕込み番号♯16
兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+5.0
酸度:1.5
アルコール度数:17.5%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 7686円(税込)
    0720ml 3591円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。


◆義侠 平成22BY スペックG
純米大吟醸・750㎏40%・生酒♯17
特別栽培米使用
色:透明
香:すっきりした香り。往年の義侠を思わせる義侠らしい香り。熟したラ・フランス、白ブドウに似た上品な香りがあります。
味:完熟したラ・フランスを口に含んだ時のような甘みを帯びた香味が口いっぱいに広がります。特別栽培米に共通したことですが、今飲むよりも秋口まで熟成させて飲む方が美味しいと思います。長期熟成に向く酒質です。
原料米:ランク:純米大吟醸原酒・生酒 750㎏×40%精白 仕込み番号♯17 特別栽培米使用
兵庫県東条産 A山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+4.5
酸度:1.3
アルコール度数:16.9%
使用酵母:協会9号
価格:1800ml 8610円(税込)
入荷時期:03月下旬~04月上旬ごろ予定
予約者を最優先します。